病院やデイサービスの集まりなどで、時々不可思議な対応をする母の行動を「パーキンソンの薬の副作用で幻覚を見るんです」と説明すると、皆納得するので便利にこの方便を使っていたのだが、パーキンソンの薬を飲む前から幻覚を見ていたのは明らかだった。精神病院へ入院していた当初からそれは始まっており、今となっては何が原因だったのか解明することは出来ない。 「一体、母にはどんな風に見えているのだろうか」(介護しているとき、いつも思っていたことだが)。 きわめて鮮明に見えているような節が窺えることが何度となくあった。 隣の家(実際には隣は空き地で何もない)の夫婦が良くうちへ来るようで、いつも「何で、うちばっかりに来てるんだろうね?あっちへ行け!」などと言って、立ち上がるときにつかまれるようにソファの横に固定しておいた籐の物入れを良くたたいていた。 嫌っているのかと思うと、「ちょっと、隣まで挨拶に行ってくる」と言い出して「隣には何もないよ」と言ってもきかないこともあった。 そんなときは、仕方なく隣まで連れて行って何もないことを見せるのだが、納得するのはその時だけで、すぐに又見えざる隣人との戦いが始まるようだった。 夜などに「ほら、あんたの後ろから付いていってるよ!」などと言われると、本人に嘘をついている意識が全くないため、真に迫っており「ギクッ!」とすることが何回かあった。 足の動きが比較的良くなってくると、次にこの「幻覚」を何とかしてやりたいと思うようになって来た。 大学病院の精神科で「シンチテスト」という脳の血流を調べる検査を受けることにした。 結果、小脳の血流があまり良くないということで、また薬が増えてしまったのだが、この抗幻覚剤というのが母の体質に合わなかったようで、飲んだとたんに全身の体の力が抜け、椅子に座っていることも出来なくなったしまった。 この状況に本人はもちろん私もびっくりして、2週間ほど服用を続けて様子をみる約束だったが2度とその薬を飲ませることはなかった。 その後、「別の薬を試してみましょう・・・。この薬は副作用の少ない新しいものですから・・・」などと言われ、3,4種類の抗幻覚剤を試してみたが、結局どれも母の体質に合うものはなく、なんとなく幻覚治療は立ち消えになったしまった。 最終的に精神科医の診断としては、「パーキンソン病ではなくて、『レビー小体』型の痴呆(幻覚を見るのが特徴の不治の病)を疑っている」と言っていたが、どちらも幻覚を見、完全な治療法がないというところは一緒で、こちら側としてはどっちでもいいことだった。 抗幻覚剤にしろパーキンソンの薬にしろ、新しい薬を試すときに医者は「これを試してみて下さい、駄目なら止めれば元に戻りますから」と言うのが常だが、新しい薬を試す前の体の状態を10とすると、止めても10に戻ることはなく、必ず8とか9くらいの状態に悪化し、そんなことの繰り返しで、徐々に状態は悪くなっていったような気がしてならない。 介護の達人―家庭介護がだんぜん楽になる35の鉄則
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